アスリートは鉄欠乏性貧血を起こしやすい
鉄欠乏性貧血は,体に貯蔵されている鉄分が不足することで赤血球が作られなくなって起こる貧血です.女性には月経に出血が定期的に起こるため,鉄欠乏性貧血が起こりやすいのですが,近年アスリートに起こる鉄欠乏性貧血が注目されています.
激しいトレーニングを行なっているアスリートは,発汗などによる鉄の喪失が多く,また筋肉が作られる際に鉄が消耗されるなどで鉄の消費が多くなっており,食事からの鉄分摂取とバランスが取れなくなることで鉄欠乏性貧血が起こると考えられています.
赤血球は酸素を運んでいるため,有酸素運動を行う長距離走ランナーでは,以前なら問題なかったトレーニングについていけなくなる,貧血でタイムが悪化するなどの症状が出やすい一方,球技系の普段のトレーニングがきつい種目では症状が出にくいとも言われています.
以前のようなパフォーマンスが出ない,一生懸命トレーニングしても記録が横ばいになるなどの症状があれば,血液検査を行うことが勧められます.
アスリートの貧血の診断に必要な検査
基本的には,一般的な貧血と同様,血液検査で血色素量(ヘモグロビン濃度)や,フェリチン,血清鉄などを血液検査で調べます.
ただ,注意すべきこととして,トレーニング中の長距離ランナーは循環血漿量が増加しているため,血色素量(ヘモグロビン濃度)が低めに出て,貧血があるように見えることがありますので,トレーニング期間中に行なった1回の血液検査で診断することは控える必要があります.シーズンオフでトレーニングを休んでいる(循環血漿量は元に戻ります)ときに血液検査をするか,時期を変えて複数回検査を行う方がいいでしょう.
アスリートの貧血の治療
基本的には「鉄欠乏性貧血:副作用で治療が続けられない!」に記載しましたように,治療が必要なレベルの貧血では,食事療法では改善が難しく,鉄剤の使用が必要になります.この場合でも,注射は鉄過剰症の可能性があるために極力避ける方が望ましいとされます.
アスリートの貧血の予防
アスリートの鉄欠乏性貧血の予防で一番大切なのは,十分なエネルギー量とバランスの良い食事を摂ることです。朝食・昼食・夕 食と補食 で 炭水化物、タンパク質、ビタミン、ミネラル、脂質をまんべんなく摂り、さらに積極的に鉄分の多い食品、赤血球を作る良質なタンパク質、鉄の吸収を高めるビタミンC、血液を作るビタミンB群(B12・B6と葉酸)を含む食品も摂りましょう。食材の種 類はできるだけ多くして、塩分、脂質の摂り過ぎにも注意してください。
鉄を含む食品の特徴
ヘム鉄 | 非ヘム鉄 | |
---|---|---|
鉄が多い食品 | 肉(レバー、赤身牛肉)、魚(赤身魚、青魚)、貝 | 野菜、卵、乳製品 |
吸収率 | 高い | 低い |
同時に食べる食品によって、鉄の吸収率は変化します。すなわち、非ヘム鉄しか含まない食品であったも、鉄の吸収率を上げる食品と一緒に食べることで鉄の吸収率を上げることが出来ます。鉄を補いたいからと、ヘム鉄を多く含む肉ばかり摂取していると栄養のバランスが偏ってしまい、全体としては不適切な食事になってしまいかねませんので、注意が必要です。
鉄の吸収を助ける栄養素
ビタミンC | タンパク質 |
---|---|
柑橘類、イモ類 | 肉、魚、卵、乳製品 |
ヘモグロビンの合成を助ける栄養素
ビタミンB群(B12,B6,葉酸) | 銅 |
---|---|
海苔、レバー、枝豆、モロヘイヤ、芽キャベツ | レバー、納豆、ココア、ごまなど |
検査をするタイミング
上述しましたが、アスリートや学校の運動系の部活動をしていて、以前のようなパフォーマンスが出なくなったり(陸上競技などはタイムや距離など、数値に表れるのでわかりやすいかもしれまんが、球技系だと調子の波と考えられがちで、わかりにくい),一生懸命トレーニングしても記録が横ばいになるなどの症状や、一般的な貧血のようにめまい、立ちくらみ、朝起きた時の倦怠感、喉の調子が悪いなどの症状があれば,血液検査を行うことが勧められます.なかなかこのような知識がなく、血液検査を受けようとはならないかもしれませんが、一度試してみてもいいかもしれません。
当院でも検査可能ですので、希望される方は来院されるか、お電話(電話番号:0797-61-5335)でご相談下さい。