血液

新規リンパ腫治療薬(抗がん剤を使わない):リツキシマブと抗CD47抗体(5F9)の併用療法

マクロファージの貪食作用を高める新しいリンパ腫治療薬

先日記事を作成したチサゲンレクルユーセルとは別の作用機序を持った悪性リンパ腫の新しい治療薬の報告がありましたのでご紹介します.

ご自身がリンパ腫であったり,ご家族にリンパ腫の患者さんがおられる方なら,リツキシマブ(商品名:リツキサン)というお薬のことを必ず聞いたことがあると思います.リツキシマブは「抗CD20モノクローナル抗体」と言われる抗体薬の草分けとも言える薬で,B細胞性リンパ腫(びまん性大細胞型Bリンパ腫,ろ胞性リンパ腫,MALTリンパ腫,マントル細胞リンパ腫などがあります)には必ずと言って使われる標準治療薬です.抗体とは,血液中に存在する物質で,それぞれの抗体が別々の異物に結合できる性質があり,免疫に関与しています.リツキシマブは,B細胞リンパ腫のがん細胞表面にある「CD20」という物質に対して特異的に結合する抗体で,B細胞リンパ腫の治療に用いられています.

B細胞リンパ腫の最初の治療には基本的に必ず使われる薬ですが,再発した時や,初回治療でもリンパ腫が寛解にならなかった時に,リツキシマブに耐性になっている場合があり,その時はリツキシマブを使っても効果がなく,その後の予後は極めて不良でした.

今回報告されたHu5F9-G4(以下5F9)は「ヒト化抗CD47モノクローナル抗体」です.これは,マクロファージという免疫細胞ががん細胞を発見し,貪食して破壊する作用を高める(通常,がん細胞はCD47という物質を表面にたくさん持っており,それによりマクロファージの貪食を免れている)という作用を持っています.リツキシマブは,がん細胞に結合した後,マクロファージによる貪食を促進することで抗がん作用を発揮するため,5F9とリツキシマブを同時に使うことで,相乗効果を期待できるという治療法になります.

リツキシマブ抵抗性のリンパ腫に対して高い奏効率

22人の悪性リンパ腫患者(15人がびまん性大細胞型Bリンパ種(DLBCL)),7人がろ胞性リンパ腫(FL))を対象にした臨床研究で,95%の患者がリツキシマブに抵抗性でした.過去に中央値4個の治療を試みられているという,難治例が含まれた試験と言えます.

治療効果として,全奏効率は50%(寛解と部分奏効合わせた割合),完全寛解率は36%でした.DLBCLだけで言えば,全奏効率は40%,完全寛解率は33%で,FLだけであれば全奏効率は71%,完全寛解率は41%でした.DLBCLの観察期間中央値は6.2ヶ月,FLの観察期間中央値は8.1ヶ月で,91%の人が効果を維持していました.

有害事象(有害な副作用)としては全て軽度でした.5F9は赤血球に結合して,古い赤血球が破壊されるのを促進するので,投与開始時に貧血が見られますが,これも軽度でした.(N Engl J Med 2018;379:1711-21

5F9の意義

一つは,リツキシマブに抵抗性になった場合でも,5F9を併用することでリツキシマブの効果を復活させることが出来る可能性がある薬ということです.今回はリツキシマブと5F9のみの併用の試験でしたが,これにさらに別の薬剤を加えることで,さらにリンパ腫の予後を改善させられる可能性があるかと思われます.2つ目として,いわゆる抗がん剤を含まない治療であるということです.ニボルマブ(オプジーボ)に代表されるチェックポイント阻害薬は,あまり非ホジキンリンパ腫では芳しい成績を挙げられていません.その中で5F9とリツキシマブは非ホジキンリンパ腫における新しい免疫療法となりうる可能性があります.今回の報告は難治例に対する治療成績のため,より早期の段階で使用した場合の効果は未知数ですが,ほとんど有害事象なく早期にリンパ腫を縮小させていることから,ご高齢であったりして一般的な治療を行うことが難しい患者さんに対しても使用可能で,かつ有効性のある治療選択肢になるかもしれません.

まだ長期成績は分かりませんし,奏効率自体も難治例に対して見れば良好と思われますが,より早い段階で使用した時にどの程度の効果が期待できるのかなど,分からない点はまだまだありますが,新しい作用機序のお薬であり,今後の展開に注目が集まる薬剤かと思われました.

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