病気のおはなし

高血圧ガイドライン改定:臨床的惰性に負けるな!?

奈良県減塩キャラクターげんえもん

高血圧ガイドライン改定

既に多数のニュースサイトで報告されていますが,日本高血圧学会の高血圧ガイドラインが今年5年ぶりに改定されます.

我々医師がこのようなガイドラインを読んで勉強する時,「ある疾患について,現時点で標準的だと言われている治療・検査方法は何か? またその医学的な根拠となるエビデンスは何か?」ということを中心に見ていきます.

基本的には医療というのは患者さん毎に個別化が必要なので,ガイドライン通りの治療や検査を実際に目の前の患者さんに実践するかは,時と場合によります.これは,ガイドラインに書いてあることが机上の空論だからではなく,ガイドラインは複雑な臨床的データを経験ある先生方が集約し,そこから端的な結論として記述くださっているものであって,全ての患者さんに必ず行うべき医療を記載しているわけではないからです(もちろん,全ての患者さんにもれなく行うべきことが書いてあることもあります).ただ,背景の臨床データを全て頭に入れて,目の前の患者さんに個別化した医療を行うというのは人工知能(AI)でなければ不可能なので,基本的にはガイドラインに従い,あとは個々の医師の経験に基づいて調整するというのが実際のところかと思います.

今回の高血圧ガイドラインの変更点は次の通りです:

  • 130〜139/80〜89mmHgを高値血圧,120〜129/80未満を正常高値血圧に呼び方を変更.(高値血圧は,高血圧とは言わないが,脳卒中などのリスクは上昇するため)
  • 降圧目標が引き下げられた(75歳未満:130/80mm未満,糖尿病:130/80mm未満,慢性腎臓病(尿蛋白陽性):130/80mm未満,75歳以上:140/90mm未満).75歳以上でも,糖尿病や慢性腎臓病(尿蛋白陽性)であれば,130/80mmHg未満を目指す
  • 微量アルブミン病・尿蛋白がない糖尿病合併高血圧の高圧薬は,ARB,ACE阻害薬,Ca拮抗薬を推奨
  • 微量アルブミン病・尿蛋白がある糖尿病合併高血圧の高圧薬は,ARB,ACE阻害薬を推奨

基本的には,高齢者でも血圧を下げることで脳卒中リスクは低下しうるので,しっかり血圧を下げるようにすべしということになっています.

未治療・治療不十分高血圧患者を減らせ

ガイドラインによると,日本の高血圧患者数は4300万人と推定されているが,その内2350万人しか治療を受けておらず,またその50%が降圧目標を達成していないとのことです.また,日本人の高血圧になる要因として,主に加工食品からの食塩摂取量の多さと,肥満・メタボリック・シンドロームが上がられており,もっと社会全体として食塩摂取量を減らす取り組みを求めています.

医師の臨床的惰性

耳が痛いと感じたのは,これだけ治療不十分(薬を使っているが,降圧目標を達成できていない)の患者さんが多い原因に,医師の臨床的惰性があると指摘されていることです.臨床的惰性とは,「高血圧であるにもかかわらず治療を開始しない、または、ガイドラインで示されている降圧達成目標よりも高いにもかかわらず、治療を強化せず、そのまま様子をみること」です.

外来で患者さんと話をしていて,血圧手帳を見ると血圧が140/90ギリギリだけど,そこでお説教はするものの,薬を増やしたくないという患者さんに声に流されて,薬を積極的に調整しないということは往往にして良くあります.実際,100人の高血圧患者さんを診療していて,全員目標の血圧になっていなくても,その内脳卒中になってしまう患者さんは数人レベルでしょう.きっちり血圧をコントロールしても,1人くらいは脳卒中を発症するので,なかなか実感として脳卒中を増やしていると医師は感じないかもしれません.

ただ,割合として少なくとも,血圧をしっかりコントロールすることで防げる脳卒中があることをデータは示しています.我々医師は,惰性に流されず,患者さんに対して高血圧が持続することの危険性を説明することで啓蒙し,なるべく血圧を低く保つように努力すべきだと胸に刻まれました.

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