日常的な病気

電子タバコの有害性:米国で1080人が肺障害を発症

新型タバコは燃焼式タバコとどう違うの?

最近日本でも、火をつけて吸うタバコではなく、iQOSなどの非燃焼式・加熱式タバコがプロモーションされ、喫煙する方が増えています。
私も、電子タバコや非燃焼・加熱式タバコが、普通のタバコとどう違うのかあまり分かっておりませんでしたので、今回少し調べてみました。

電子タバコと非燃焼・加熱式タバコは、従来の葉タバコを燃焼させるタバコに対して、「新型タバコ」と総称されます。

まず、電子タバコ(E-cigarretes, vape)は、液体を加熱して、発生するエアロゾルを吸引するというタバコです。「エアロゾル」とは、難しく言えば、「気体の中に浮かんでいる微細な液体・固体」ということです。身近な例としては、霧とか“もや”がエアロゾルになります(細かい水粒子が空中に浮かんでいる)。口元で直接蒸気を発生させて吸い込むアロマのようなイメージのタバコです。
日本では、薬事法でニコチンを含む電子タバコのリキッドは認められていないため、ニコチンを含んだ電子タバコ(ENDS)は販売されていませんが、個人輸入の形で入手できるそうです。

続いて、非燃焼・加熱式タバコは、葉タバコを装置の中で加熱して発生するエアロゾルを吸入するタバコです。
日本ではよくプロモーション活動が行われてよく知られているiQOS(フィリップ・モリス)、glo(ブリティッシュ・アメリカン・タバコ)、Bloom TECH(日本たばこ産業)などがこれに当たります。

どちらも吸っていて煙が出なかったり、デジタルデバイスのようなスマートな機器を使ったりするため、従来の燃焼式タバコよりも健康への悪影響や周囲への迷惑が少ないイメージがあり、急速にシェアが広がっています。2018年現在で、全タバコにしめるシェアは18%で、2020年には30%にもなると予測されています。

1.電子タバコ E-cigarettes

a). 液体(リキッド)を加熱してエアロゾルを発生させて吸引するタイプ
b). 液体(リキッド)には、ニコチンを含むものと含まないもの、

の2種類がある。

注)
ニコチンを含むもの:electronic nicotine delivery systems (ENDS)
ニコチンを含まないもの:electronic non-nicotine delivery systems (ENNDS)

注)海外ではニコチン入りリキッドが販売されている(ENDS)。一方、日本では、医薬品医療機器法(旧 薬事法)による規制により、ニコチン入りリキッドは販売されていない。

2.非燃焼・加熱式タバコ Heat-not-burn tobacco

a). 葉タバコを直接加熱し、ニコチンを含むエアロゾル吸引するタイプ(商品名 iQOS, glo)
b). 低温で霧化する有機溶剤からエアロゾルを発生させた後、タバコ粉末を通過させて、タバコ成分を吸引するタイプで、電子タバコに類似した仕組み(商品名 Ploom TECH)

電子タバコで急性肺障害

新型タバコは、吸引される有害物質の量が従来のタバコよりも軽減されており、少なくとも従来のタバコより有害ではなく、禁煙補助になるとタバコ会社は主張しています。具体的には、一酸化炭素、クロトンアルデヒドらの有害物質が燃焼式タバコに比べて、90%軽減しているなどです。

従来のタバコは、肺がん、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、気管支喘息、鼻腔や口腔などの頭頸部がんのリスクを高めることが知られています。
新型タバコが肺癌を引き起こすリスクが高いのかどうかはまだ分かっていませんが、最近注目されているのが、vapeを吸ったことで急性肺障害が起きたとする報告です。
急性肺障害(acute lung injury)とは、胸部X線やCTで、びまん性に(平たく言えば両肺に)浸潤影という異常陰影が現れ、低酸素血症を起こす病気です(vapeに限らず、肺炎など様々な原因で起こります)。

米国CDCは、vapeによる健康被害は、2019年10月3日の時点で48州と1つの米国領において1080の肺障害症例と15の州で18人の死亡を報告しています。
どういう機序で肺障害が起こるのか、電子タバコのどの成分が原因なのかはまだ不明ですが、THC(テトラヒドロカンナビノール)という大麻成分や、ニコチン含有リキッド使用者がそれぞれ76.9%、56.8%いたことから、米国FDA(食品医薬品局)は少なくともTHC含有リキッドは使用しないよう警告しています。また、グリセロールやプロピレングリコール、ニコチンも原因として否定できないようです。

新型タバコは吸っても大丈夫?

vapeはニコチンパッチよりも禁煙率が高く(紙巻きたばこを1年間禁煙できた人の割合は、ニコチン代替品を使用した人で9.9%だったのに対し、vapeに切り替えた人では18%)、禁煙補助に有効だという無作為化比較試験(N Engl J Med 2019; 380:629-637)があり、タバコ会社は普及のためにそのデータを援用しています。ただし、この論文では、vapeに切り替えた人は、vapeを使い続ける可能性が高く、普通のタバコがvapeに切り替わっただけであることも示唆されています。

ただ、新型タバコは、普通のタバコ同様に全く害がないわけではありませんので、その意味で日本呼吸器学会は、新型タバコの使用を推奨していません。
上記の通り、普通のタバコとは別の病気を誘発する可能性もあり、普通のタバコよりも安全だと過信せず、基本的にはやめておいたほうがいいと考えられます。

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