オスラー病(遺伝性出血性末梢血管拡張症)は、毛細血管の脆弱性から、皮膚・粘膜・消化管から出血を繰り返す病気で、遺伝性の出血性疾患です。
特別な治療法のない疾患ですが、2024年9月にオスラー病の鼻出血に対する新規治療法の論文がNew England Journal of Medicineに掲載されましたので、ご紹介します。
オスラー病(遺伝性出血性末梢血管拡張症)とは
オスラー病は「遺伝性出血性末梢血管拡張症」が正式名称の疾患で、皮膚・粘膜・消化管の毛細血管拡張病変からの反復する出血、多臓器(脳・脊髄・肺・肝臓)の動静脈奇形、常染色体優性遺伝を特徴とする遺伝性の出血性疾患です。発生頻度は5,000〜10,000人に1人と推定され、日本国内には約15,000人の患者がいます。
主な症状
- 反復する鼻出血(頻度は95%)
- 消化管出血(頻度は33%)
- 内臓の動静脈奇形(動脈と静脈の間の毛細血管がなく、動脈と静脈がバイパスしている状態)
この中で医学的に最も怖いのは、3番目の動静脈奇形で、脳塞栓や肺出血、脳膿瘍、心不全、肝疾患、出血性梗塞、てんかんなどの重篤合併症を起こすことが知られています。
しかしながら、患者様が最も悩んでいるのは1番目の鼻出血であると言われており、具体的には、本当に毎朝大量の鼻出血が何時間も止まらないなどで、輸血を受けることになったり、就学や就労に支障を来し、うつ病やPTSDなどの精神疾患を合併する頻度も高いとされています。
オスラー病は多臓器に症状が現れますので、具体的にどの診療科が見るのかはあまり決まっていないように思います。私の専門は血液内科で、実際は治療に当たるということはないのですが、「出血」が主訴になるので、診断のために紹介になることがしばしばあり、問診でオスラー病を疑う患者様を見たことがあります。
オスラー病の原因
血管新生に関わるTGFβ骨形成蛋白シグナル系の異常が原因とされており、ターゲット遺伝子(ENG(Endoglin)、ACVRL1(ALK1)、SMAD4)も同定されています。
新規治療 ポマリドマイド療法
血管新生の異常が原因であることから、先行研究としてサリドマイドを用いた治療が研究されていましたが、有害事象が多いことから、サイドマイド誘導体のポマリドマイド(pomalidomide)を用いた治療について研究が実施されました。
方法
144人の患者を対象に、ポマリドマイドを治療群、プラセボを対照群としたランダム化比較試験が実施されました。ポマリドマイドの用量は1日4mgで開始され、有害事象があれば3mgに減量することが認められていました。
結果
24週間の時点で、治療群ではプラセボに比べて有意に鼻出血の程度が改善していることが示されました。
また、被験者の生活の質も、治療群はプラセボに比べ、有意に改善していることが認められました。
また、副作用について、治療群は便秘や好中球減少、皮疹などの頻度がプラセボよりも高かったことが示されています。
ポマリドマイド療法の問題点
現在、日本ではポマリドマイドは再発難治性多発性骨髄腫という血液がんに対して保険適用が認められている薬(商品名:ポマリスト)です。ただ、かつて「薬害」を起こしたサリドマイドの誘導体であるため、処方に制限があり「レブメイト」という適正管理基準を満たさなければ、処方を行うことが出来ません。
日本でこのおくすりがオスラー病に承認されるのかどうかは未知数ですが、ハードルはかなり高い気がしますね。