肺炎球菌とは?

「肺炎球菌」というのは細菌の一種で,その名の通り肺炎の原因となる細菌です(他の菌が原因のこともあります).しかし,子供では髄膜炎という感染症を起こしたり,高齢者では血液中に菌が侵入してしまう侵襲性肺炎球菌感染症という重大な感染症も引き起こし,高齢者の多くの死亡原因を作っている恐ろしい病原体です.

そんな肺炎球菌の予防方法として,肺炎球菌ワクチンは多くの方がご存知と思います.65歳以上の方には助成があるため,自治体から接種の連絡が届くこともあると思います.

ただ,同じワクチンがあるインフルエンザなどと違って,肺炎球菌と聞いても,一般的にはピンとこない病原体であるため,連絡がきたもののワクチンを打ったほうがいいのか,どちらでもいいのか分からず,打たずに様子を見られている方は大勢おられると思います.

ここでは,肺炎球菌ワクチンによる有用性と副反応はどういうものか.またどのような方が接種を受けるべきかということについてご説明したいと思います.

肺炎球菌ワクチンの有用性

  • 高齢者においても,23種類の肺炎球菌に対する抗体産生が期待できる
  • 肺炎の発症,肺炎による入院,肺炎による死亡の可能性が減ることが期待できる
  • 重大な肺炎球菌感染症が減ることが期待できる.

肺炎球菌ワクチンの副反応

肺炎球菌ワクチン接種では、接種部位の痛み・赤み・腫れ、筋肉痛、だるさ、発熱、頭痛などの副反応がみられることがあります。

がん患者に対する肺炎球菌ワクチン

よく質問されることに,「がんに掛かっている(がんの抗がん剤治療を受けている,または治療は終わって経過観察している)が,肺炎球菌ワクチンを受けてもよいか? 受けても意味があるか?」というものがあります.

がん患者さん(特にリンパ腫や白血病などの血液がんの患者さんや,脾臓を取ってしまった患者さん)は免疫が低下しており,肺炎球菌に感染する可能性も,「侵襲性肺炎球菌感染症」という命に関わる危険が感染症にかかる可能性が高くなっています.特に「侵襲性肺炎球菌感染症」に対するワクチン効果は,一般的な高齢者でワクチン効果が65%あるところ,がん患者さんでは20%と低いのですが,それでも予防効果はあり,がん患者さんは肺炎球菌ワクチンを接種すべきと考えられます.また,肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンをどちらも接種することでさらに予防効果は高まるので,がん患者さんは,両者を接種しておくべきと考えられます.

肺炎球菌ワクチンを接種すべき方

基本的には65歳以上の方と、肺炎球菌による重篤な菌血症の高リスク(慢性呼吸器疾患やがん患者さん,脾摘をした患者さん)は,接種されることをお勧めします.

肺炎球菌ワクチンを接種する時期

健康な方であれば,補助の受けられる年に接種するのがお得だと思います.補助は「65,70,75,80,85,90,95,100歳」の年にしか受けられません。

一方,高リスクな方(慢性呼吸器疾患やがん患者さん,脾摘をした患者さん)は,致命的な感染症の危険を下げるべきと思われるため,できるだけ早めに接種することをお勧めします.

2種類の肺炎球菌ワクチンの違いと使い分け

肺炎球菌ワクチンには,23価肺炎球菌莢膜サッカライドワクチン(PPSV23,商品名:ニューモバックス)と13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13, 商品名:プレベナー13)の2種類があります.高齢者に対して接種の案内が届くのは前者のPPSV23(ニューモバックス)です.65,70,75,80,85,90,95,100歳の方に対しては,初回の接種に対してワクチン費用4,000円の補助があります.初回接種から5年以上後の再接種が可能となっています(5年以内の再接種は,接種により注射部位の疼痛、紅斑、硬結等の副反応が、初回接種よりも頻度が高く、程度が強く発現すると報告されていることから控えるべきとされています).

注意すべきこととして,65歳以上のニューモバックスの接種は定期接種ではありますが,B類疾病という扱いで,行政の勧奨はなく,基本的には任意接種です(打つか打たないかは個人の自由です).

ニューモバックス NP プレベナー13
含まれる抗原数 23種類 13種類
抗体を作らせる能力 低い 高い
効果の持続 短い 長い
再接種の必要性 5年ごと 不要
補助の有無 有り なし

(長野県立信州医療センター「肺炎球菌ワクチンを受けられる方へ」

いろいろなクリニックのホームページを見ると、「肺炎球菌ワクチン」の価格表の中に、価格が異なる2種類の肺炎球菌ワクチンが掲載されていることが多いと思います。

2種類もあるけど、値段も違うし、補助の有無もあるし、安くて補助がある方だけでいいのか? それとも両方打ったほうがいいのか? いろいろ疑問に思われる方もおられるかと思います(実際には、「肺炎球菌ワクチン自体なんで接種しないといけないのか?」という方が最も多く、ワクチンの違いにご興味をお持ちの方は少ないと思います・・・)。

先にまとめますと、

  • 特に侵襲性肺炎球菌感染症のリスクがない方の場合、ニューモバックスのみで構わない。ただ、両方打ってもOK.
  • 抗体がつきにくいと考えられる免疫不全の方は、プレベナー13とニューモバックスの両方を接種するほうが望ましい。

ということになります。

理由

まず、肺炎球菌の抗原型は90種類以上あります。ニューモバックスはそのうち23種をカバーしています。ニューモバックスがカバーしている抗原型()は、侵襲性肺炎球菌感染症を起こす肺炎球菌の6割をカバーしているとされていますが、それでも全種類をカバーしているわけではありません。しかしそれでも、ニューモバックスが侵襲性肺炎球菌感染症を起こすリスクを引き下げることは証明されています。

※抗原型:細胞表面の抗原(免疫反応を起こさせる物質)の構造の違いによる微生物やウイルス、細胞等の分類。例えば、同じ細菌でも、抗原型が異なれば免疫では別の病原体を見なされ、過去に同じ細菌に掛かっていたとしても、免疫記憶がなく、撃退するのに時間を要する。

一方でプレベナー13は、現在米国では定期接種化されニューモバックスとともに接種するようになっていますが、日本ではまだプレベナー13も打つことで侵襲性肺炎球菌感染症が減少するのかどうかはまだデータがありません。

プレベナー13がカバーしている13種の抗原型は、ニューモバックスがカバーしている抗原型と全く別の抗原型をカバーしているわけではなく、一部重複しています。そのことから、プレベナー13を追加しても、完全に肺炎球菌感染症を予防することは理屈上考えにくいです。

ただ、プレベナー13は、ある種のリンパ球(免疫記憶に関係する細胞)を刺激し続けるという仕組みが加えられていますので、そのような仕組みを持っていないニューモバックスに比べて、抗体がつきやすく、また長期間持続するとされます。

そのため、免疫がつきにくい免疫機能の未発達な乳幼児や、免疫不全の患者さんにとって、プレベナー13は有益と考えられます。ただ、65歳以上であるというだけでプレベナー13がないといけないのかどうかは分かっていません。私は血液内科医のため、造血幹細胞移植後の患者さんに対しては、米国で推奨されている方法に習い、プレベナー13を3回接種したあと、ニューモバックスを1回接種していました。ただ、プレベナー13はすべて自費でもあり、移植をしていない方にまで勧めるようなことはしていませんでした。この方法が正しいのかどうかは、これからのデータ次第というところです。

まとめ

肺炎球菌ワクチンは,致命的な侵襲性肺炎球菌感染症を減らすのに有用なワクチンです。重篤な感染を起こしやすい慢性呼吸器疾患やがん患者さん,脾摘をした患者さんはぜひ接種すべきと考えています。また、肺炎球菌ワクチンは,個人において抗体を作って感染を予防効果もありますが,出来るだけ大勢の方がワクチンを受けることで,その地域で肺炎球菌に掛かる人が減り,それによって肺炎球菌が伝染する可能性を減らし,それによってさらに肺炎球菌に減らせる可能性がありますので,65歳以上になった方は、いまは健康でも、ぜひ接種すべきだと考えています。